着物の模様・柄として人気のある「鳳凰」。その起源と、着物に折り込まれる場合の意味を解説
鳳凰と言うと英語ではフェニックスといった具合に解釈されていますが、起源としても姿形としても本来は全くの別物でした。しばしば混同されるこの鳳凰とフェニックスそれぞれの起源と、込められた意味、特にそれが着物の上に柄として表現される時には特別な意味を持ちます。和装の結婚式をご予定であれば、是非この不思議な鳥について知っておいて下さい。あなたが選ぶ着物の柄にも現れるかもしれません。
鳳凰とは
中国古来の伝承に出てくる伝説の鳥
紀元前二世紀頃の中国(前漢の時代)の中国最古の辞典である「爾雅」という書物に出てくるのが鳳凰についての最も古い記述とされています。これによると、頭はニワトリ、首は蛇、背中は亀、尻尾は魚という、何とも奇妙な姿形の鳥、というよりはもはや鳥とは言いづらく「生き物」として書かれています。
書物によって背中が虎であったり、首が鶴であったりという記述のバリエーションがありますが、黒・白・赤・青・黄という5色を体のあちこちにちりばめた、極彩色の生き物だったようです。(熱帯の鳥に似たような派手な色のものはいそうですけどね)
鳳凰の卵は不老長寿の妙薬とされ、仙人達が住む山に棲息しているといった伝承もあります。この辺りが、「不老不死」「生き返る」「若返る」といった鳳凰のイメージのルーツなのかもしれません。
フェニックスとの違い
フェニックスは、古代ギリシャ・ローマ時代の文書に記述が見られ、さらにその直接的なルーツはペルシア神話の「フマ」という鳥であると言われており、さらにこれのルーツとされているのが古代エジプト神話の霊鳥「ベンヌ」であると言われています。このベンヌはサギのような水鳥として表現されていますが、これをルーツとしているはずのギリシャ時代の歴史家ヘロドトスの著書である「歴史」には太陽に結びつけられた鷲(ワシ)のような鳥として描かれています。中国の鳳凰は鳥として外見の最も近い種類はクジャクであるため、鳳凰とフェニックスは別物であると考えられています。
ガルーダとの違い
インド神話に出てくるガルーダというのもまた、「炎のような光を放ち、不老不死の体を持つ鳥」とされていますが、鳳凰やフェニックスと比較してもその形態はかなり特異で(むしろ人間に近いような表現の像も多い)、全くの別物と考えられています。
国・文明と歴史が全く異なるところでこのような、どことなく似た特質を持つ「鳥」がイメージとして持たれていたというのはとても不思議なことですね。
着物に折り込まれた鳳凰
柄としての人気度
「平和で誰もが幸せになれる世界が到来する」際に現れる鳥とされており、色が華美で優雅な姿のために、日本では(飛鳥時代には婚礼用の白無垢のような着物はさすがに無かったと思われますが)飛鳥時代から鳳凰は吉祥紋様として好まれており、絹織物などの中に数多く描かれています。
鳳凰の他に、着物に出てくる動物は?
不思議と、着物に出てくる動物は鳥が多いです。鶴「延命長寿」、おしどり「仲睦まじく、夫婦の変わらぬ愛」、クジャク「綺麗な外見とは裏腹に、口に入る大きさであれば植物から昆虫から、他の生物であれば決して食べないサソリや蛇といったものまで食べて栄養分にしてしまうため、邪気や悪霊を払う」といった意味を込められているようです。
着物以外でも好まれる鳳凰
「枕草子」には、桐の家具に鳳凰を彫刻することが流行のスタイルになったことがあると書かれており、実際に平等院鳳凰堂や金閣寺の屋根に設置されている彫刻が有名です。
紙幣では2004年から使われている一万円札の裏面に平等院の鳳凰が、日本赤十字社の社章は、正式名称は「赤十字竹桐鳳凰章」とここにも鳳凰が、そしてトヨタ自動車が最高級のラインナップとして長きに渡って製造している乗用車のセンチュリーには、そのエンブレムとして鳳凰の意匠が入っています。また、賞状のフチの部分に描かれている鳥も鳳凰です。
高貴、聖なるもの、気高い、不老不死、光明、邪気を祓う、伝承の中に出てくるこういった特性が、時代を超えて好まれるのでしょうね。
まとめ
着物の柄として使われる鳳凰の刺繍の意味を調べるというお題で書いてまとめた本稿ですが、その起源が2000年数百年も遡った時代にあるというのは驚きました。その時代の辞典に出てきたということは、伝承としてはもっと古くからあったということなのでしょう。
中国の大元のデザインの鳳凰そのままでは若干、着物の柄としてはどうなのかという懸念は残りますが、現代的にアレンジされた鳳凰は、色彩が華美でとても優雅な、聖なる鳥として描かれており、おめでたいイベントにはまさに持ってこいの柄です。
婚礼用の着物の柄の中に鳳凰を見かけた時には、本稿で述べたような意味が込められているということを思い出して頂けたら嬉しいです。是非、着物選びの一助になれればと思います。